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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
」
北村は小泉の紅茶へ少したらして、ウイスキーの瓶をかかえたまま、片方の小卓の田島のそばに坐った。
「しばらく。この方は、君もまんざらではないでしょう。」
彼は二つのグラスにウイスキーをついだ。田島はなにか腑に落ちないらしく、低く囁いた。
「あなたは、松本さんと懇意だったんですか。」
「いやあ、懇意でもあり、懇意でもなし、というところですかな。」
声が大きいので、田島はすぐ話題を変えた。
「松本さんの肖像でもかかれましたか。」
「いや、一向にかきませんよ。私の肖像画なんか、実物と少しも似ないから、誰も頼みてがない。こちらも、実物に似た肖像画なんか、かきたくない。つまり、意見が一致してるわけだ。」
「然し、実物に少しも似ない肖像画なんて、あり得るでしょうか。」
「そこが、凡慮の、いや凡眼の、悲しさですな。少しも似ていないようでいて、実は大いに似ている。大いに似ているようでいて、実は少しも似ていない。そんなものばかり流行する世の中だ。政治だってそうでしょう。真実だ真実だと唱導されるものが、みな嘘っぱちで、嘘だ嘘だと唱導されるものが、みな真実ですからね。」
「いや、これからの政治はそうでありませんよ。