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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
」
田島はぼんやり画面を見上げた。
「然し、美しい風景ではありませんか。」
「いくら美しくても、大地がなくては何にもならん。つまり架空の拵え物だ。」
北村はぷいと画面の前から離れ、室の中を歩き廻った。
沈黙が続いた。
小泉がはいってきて、富子に言った。
「御主人がお呼びですよ。」
順造は茶の間で、千重子と八重子に両手を出さして、その指先の指紋を比較していた。
「袴。」と彼はただ一言、富子に言った。
「袴を、どうなさいますの。」
「ちょっと出かけるんだ。」
「どちらへ。」
「いいから袴を出しなさい。小泉君といっしょだ。洋服は面倒くさいから、このままでいい。」
なんだが、俄に上機嫌らしい。富子ははっと肩の荷を下した気持ちになった。
袴をつけ、白足袋をはき、茶を一杯のんで、立ち上った順造は、もうどこにも不健康そうな陰は見えなかった。もともと、がっしりした骨格なのだ。
彼は応接室へ行き、井上夫人と田島に鷹揚に詫びた。
「急に用事が出来て、小泉君といっしょに出かけます。どうぞゆっくりしていって下さい。」
自動車は、小泉のが表に待たしてあった。その自動車のところまで一同が送って出ようとするのを、順造は激しい身振りで断った。