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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
山男は煙草を指差した。上げましょうと、煙草を差出すと、山男は頭を振り手を振った。煙草は吸わないらしい。ほかに不自由はありませんかと、尋ねてみると、山男は靴を指差した。仕方なしに、一人が靴をぬいで差出すと、山男は頭を振り手を振った。彼はいつも跣だから、靴をはく必要はないらしい。ほかに何かいりませんかと、尋ねてみると、山男は頭を振って、立ち上り、すたすた彼方へ歩き去っていった。
「どうも作り話らしいが、僕たちの結論はこうだ。人間というものは、日常、必需品のためにばかり齷齪しているが、何かほしい物はないかと改まって聞かれると、最も不必要なもの、つまらない物を、ほしがるのだ。」
千重子はウイスキーを飲んだ。
「それが、あなたたちの文学なの。」
「文学の素材だよ。」
順一はにこにこ笑っていた。
「ばかねえ。そんなことより、コリントでもしましょうよ。もうわたし、決して負けないわ。」
「よし、やろう。」
ゲームになると、千重子は今迄よりは見違えるように強かった。
「ふしぎだなあ。酒のせいかな。」
「くやしかったら、しっかりおやりなさい。」
「僕の方は少し飲みすぎてるんだ。」
暴風雨はだいぶおさまりかけていた。