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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
「旦那は、奥にいますよ。お客さんだが、すぐ帰るでしょう。」
「そう。あとにしよう。まず食事をしてからだ。」
菅原は二階の室に通った。カーテンを引いてある窓際の卓に倚って、煙草をふかしながら、時々眼をつぶった。考えこんでるのか、うっとりしてるのか、どちらとも分らない様子だった。陳さんが、コニャックの瓶に摘み物を添えて持って来た。
「特別のサーヴィス……旅の疲れがなおりますよ。」
「ほう、こんなものがあるのかい。」
「ふだんはありませんが、特別の時だけあります。」
菅原はそれを幾杯か飲んで、いい気持ちになった。すると、奥の方からゆったりした足音が近づいてきて、周組南が現われた。
「やあ。」
差し出された手を、菅原は強く握りしめた。
「いつ帰りましたか。」
「さきほど。まだ上野駅に着いたばかりです。」
「それからすぐこちらへ?」
「ええ。何よりもまず、胃袋の要求を満たしておいて、それからと思ったので……。」
周は笑い菅原も笑った。笑ったあとで、暫くじっと顔を見合った。
「とにかく、ここではいかん。奥へ行きましょう。」
周は菅原を奥へ誘った。奥というのは、店から区切られていて、つまり周夫妻の住居である。