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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
この周志淵の家に、周文圭がいた。同姓だが、外戚になるそうで、秘書とも小間使ともつかない役目をしていたようだ。彼女は日本語が可なり出来た。俺は支那語が殆んどだめだ。随って、彼女と話をすることが多かった。周志淵が放任主義だったらしく、彼女は俺と一緒に外出もした。いつも洋装で快活な様子で、ただ口数は少なかった。カフェーでぼんやり微笑んでいたり、ジェスフィールド公園を歩きまわったりした。月明の夜、周家の客間のカーテンの陰で、俺は彼女を抱きしめて、生涯の愛を誓った。彼女は何も誓わなかった。周志淵が逃亡した後のことだ。然し間もなく、彼女自身、家から数歩のところの街路で刺殺された。犯人は何者とも分らなかった。当時の俺の狂乱した気持ちは、今から思えば愚劣極まる。
彼女の面影はいくぶんぼやけている。眉根が少しく開き、その細い眉の下に瞼がふくらみ、眼眸に理知的な光りがあり、顔色があくまで白く、その顔立全体が、晴れたり曇ったりする。――桜島は日に七度も色が変ると言われる。微妙な色合の変化は無数であろう。俺はそれを眺めて数日暮した。その山肌の色の移り変りを急速にすれば、周文圭の面影のそれに似てくる。