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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

ただ、この場合に重要な条件は、それらの人々が俺にとって無関係な他人だということだ。仏法僧がそうであることは言うまでもない。つまり俺自身が孤独者でなければならないのだ。もしそれらの人々が俺の知人であり同行者であるならば、俺の言動、俺の感情は、必ずや何等かの制約を受け、つまり俺は孤独者でなくなる。そしてさまざまな煩わしさが生じてくる。――孤独は、つつましい孤独でさえも、絶対に自由だ。それがいつも俺を誘惑する。

浅間では、俺はそうでなかった。登山はやはり一人でやった。夜のうちに出発して、夜明け前に頂上に着くのが、最もよいとされている。噴火口内の赤熱が見易いし、なお日の出も見られるからだ。提灯の光りで足元を照らして登ってゆく。沓掛口からなら、頂上までいくらもない。ただ盛り上ってるだけの山で、中腹から上は木立もなく、道に迷うこともない。岩と砂との斜面だが、散歩のような気楽さだ。頂上近くは少し嶮しい。そこを攀じ登ると、すぐに火口壁だ。謂わば端正な噴火口で、円く深く落ち窪んでる底に、熔岩が煮え立ち、濃霧のような噴煙が立ち昇っている。

水筒の水を飲み、岩に腰掛けて煙草を吸っていると、東天が白んできた。