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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

あなたは卑怯よ。それとも……。」

あの人の眉根がぴくりと動いた。なにか切なそうな眼色だった。しばらく間をおいて、でも静かな調子だった。

「あなたの言うことはよく分ります。けれど、誓うのは人間のすることで、それが守れるかどうかは、自然の手の中にあるんです。」

自然か、天か、神かが、それを決定するとは、わたしもそうだと思う。そして、生涯変らず永遠にという誓いは、ただ文学的な表現だということを、いくらか小説なども読んでるわたしは、知らないではない。けれど、わたしがうっかり言った卑怯だということ、それに対してあの人は何も抗弁しなかった。いいえ、わたしは決してあの人を卑怯だなどと思ってはいない。その反対だとさえ思っている。それなのに、愛について、恋愛について、なにか卑怯に似た影を感ずるのは、どうしてなのだろうか。

言葉がとぎれて、無言のまま、あの人は殆んど無意識のように、原稿紙にいたずら書きをしていた。鳶の鳴き声が聞えていた。

それから、あの文句が出て来た。わたしはそれをはっきり読み取った。

深い謎に包みこまれていくような気持ちだった。硝子戸の外にはちょうど、その謎をますますぼかすような強烈な光景が、かなたに展開されていた。