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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

それらの鳥を、みな鳥なのもおかしいが、俺はその時は大して気にかけなかったが、後の印象の中では、どれもみな淋しく頼りなく、火山の哀愁のなかにふっと浮んできた涙の粒のようでもある。

これも、それらの火山がそうだと言うのではない。俺の心がそうだったのだ。――実は、すべてを噴火口の中に俺は投げ棄てるつもりでいた。身についてるすべて、心についてるすべて、内臓についてるすべてを、さっぱりと脱ぎすて焼きすてて、ま新らしい人間になるつもりだった。昔話には、蛙が内臓を口から吐き出して洗濯するということがある。蛇は実際にしばしば脱皮する。俺にだってそれぐらいなことは出来るだろう。だがいざとなると、やはり未練が残る。執着が残る。

上海で懇意にしていた無国籍者のことを、俺は思い出す。紅毛碧眼白肌の中年者だったが、或る時、二人で飲んでいると、彼は突然声を挙げて泣きだした。俺は呆気にとられて、理由を聞くこともちょっと出来ない。彼はひとしきり泣いてから、自分で話しだした。或るバーのマダムと愛し合ったのだが、彼は少し酒癖が悪いので、マダムは条件を持ち出した。余儀ない場合の外、他の店では酒を飲まないこと、平素は彼女の店でだけ飲み、而も分量は彼女の指定だけに止めること、さもなければ愛情関係を絶つというのである。