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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
そこに、自由があるのだ。――周組南に向って、礼節を無視した言葉遣いを提案したのも、実はその第一歩なのだ。これは幸先のよい成功だった。だが、相手が周組南だから、謂わば同質の人間で、成功などとは言えないのかも知れない。闘争はこれからだ。然しこれは謙譲な闘争でなければならない。
阿蘇の噴火口を眺め、噴煙の中に奔騰する白熱の玉簾を見ているうち、俺はそこに周文圭とそれから松本千重子の面影を描き出して、涙ぐんだ。不覚の至りだ。然しもう、夕陽に照らされた桜島を眺めていても、涙ぐみはしなかった。ただ美しいと観た。
このまま、俺はも少し寝ていたい。充分に睡眠は取ったし、適度に食いまた飲んで、体力に不足もないが、ふしぎに憂欝だ。この憂欝の影はどこから差してくるのか。俺自身の内部からなのか、外部の世界からなのか。恐らくは両方からだろう。外部の方は今後に処理しよう。内部の方を先ず処理することだ。そのためにも少し寝ていたいのだ。胸のうちを大きく抉り取られたような哀感は、火山から来たものであるにしても、そこに空所をあけたのは俺自身だ。それを填たすのも俺自身でしなければならない。