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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
泥酔の後のくせで、多くは忘却の淵に沈みこみ、ただ所々に、幾つかの印象が峙ってるだけである………。
前日の午後、北村は数名の画家仲間と共に、若竹で飲んでいた。
若竹はもともと、下谷花柳界のなかで最も美術家に親しまれた待合である。空襲のためにこのあたりは、不忍池に面した僅かな一部を残して、すべてが焼かれてしまったが、終戦後次第に復興してきた。若竹もそのうちの一つで、平家建てながら、わりに広々とした間取りである。待合や料亭の閉鎖中のこととて、表面は貸席となっているが、昔からの馴染みの客にとっては、却って気楽に我儘が出来る。
正午すぎ、上野の都美術館に集まって、展覧会に関する用事をすました時、誰が言い出したともなく、久しぶりに若竹へ寄ってみようということになったのである。雨と風の天候が、酒席に足溜りを求めさせたとも言える。
若竹のお上さんは、楽しそうに彼等を迎えた。その顔立ちが示す通り、ぱっとした派手な気性だ。贅沢なもてなしをされそうなので、彼等は、仲間の一人が金を持ち合せていたとはいえ、少し心細くなって、この頃すっかり貧乏でねと、ケチなことを言い出した。