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くしんのがくゆう

苦心の学友

佐々木 邦

「少年倶楽部」1927(昭和2)年10月号~1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,732 字 · 332 页

青空文庫

「僕は舟には渡舟にしか乗ったことがありません」

「それじゃ酔うぜ」

「困りましたな」

と正三君は考えこんだ。釣魚も初めて、海も初めてだ。危ない危ないといって親が心配しすぎるものだから、まだおよぎも知らない。

「安斉先生流じゃないかい?」

「先生がどうかなさいましたか?」

「この春、ひっぱっていったんだが、一ぺんでこりてしまったようだ」

「酔ったんですか?」

「ああいうやせがまんの強い人だから、酔ったとはけっしていわないが、青い顔をしてあぶら汗を流していた」

「そんなに苦しいものですかね?」

「生きた心持ちはしないそうだ」

「いやだなあ」

「安斉先生は昼ごろまで辛抱していたが、とうとう小用がしたいといいだした。富田さんが『かまいません。舟の中は無礼講ですから、船頭のようにこの舷からなさい』と教えたけれど、首をふっている」

「ははあ」

「だめなんだ。先生は陸地でないと小用が出ない性分だそうだ。初めての人にはよくそういうことがある。きみも出ない方じゃないかい?」

「大丈夫ですよ」

「せっかく魚が食い始めたのに、やっかいだと思ったが、青い顔をしてふるえているから仕方がない。船頭に頼んで船宿へ漕ぎかえしてもらった。