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おちぼひろい
落穂拾い・犬の生活
小山 清
小山清『落穂拾い・犬の生活』。同一底本的分册已合并为一书。收入:落穂拾い、犬の生活、夕張の宿、生い立ちの記、桜林、西隣塾記、聖アンデルセン、前途なお、早春、その人、遁走、朴歯の下駄、安い頭、わが師への書、メフィスト。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 页
母親に死別れてから、順吉は折にふれてわが家というものを想像したが、それは幼い身で独り世の中に投げ出されたときから変ることなく、いつもきまって母親と二人で暮す生活のことばかりが思われた。死んだ母親のいる家、順吉がゆっくり手足を伸すことの出来る家。北海道行はそれまで東京の外へ出たことのなかった順吉にとっては初めてする遠い旅であったが、途中汽車が青森の郊外に入って、雪の降る中に次第に数を増してくる燈火を寒さに震えながら眺めたときにも、また北海道に渡ってから、寂しい海岸べりを長時間も、そういう寂寥の中に母親と二人で暮す生活のことが思われた。順吉の念頭に絶えず母親のことがあるというわけではなかった。心の底に畳まれているのである。
「おすぎさんは内地へ行ったことはないの?」
「ええ。まだいちども。札幌や函館さえ数えるほどしか行ったことはないんですの。」
「おすぎさんはずっと夕張ですか?」
「いいえ、あたしは岩見沢ですの。」
おすぎも肉親の縁には薄い身の上であった。父親は岩見沢の警察の老朽の巡査であったが、おすぎが二十三の年に脳溢血で死んだ。母親はその二年前に死んでいた。