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ちのもじ

血の文字

黒岩 涙香

「綾にしき」1892(明治25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页

青空文庫

ことを示せるに彼れ自ら白状したりとは何事ぞ、斯る事の有り得べきや、人々の中にて一番早く心を推鎮めしは目科なり彼れ五六遍も嚊煙草の空箱を鼻に宛たる末、件の巡査に打向いて荒々しく「夫は全く間違いだ、お前が自分で欺されたのか爾無くば吾々を欺して居るのだ必ず其二に一だ巡「其様な事は有ません夫は私しが誓います目「いや誓うには及ばぬ無言て居なさい、何でも藻西太郎の言た事をお前が聞違て白状だと思たのか、夫ともお前が手柄顔に何も彼も分ッた様に言い吾々を驚かせようと思ッたのだ」此厳しき言葉を聞くまで最と謙遜に構えたる巡査なれど今は我慢が出来ずと思いし如く横柄に肩を聳動し「へえ御免を蒙りましょう、憚りながら私しは其様な馬鹿でも無ければ嘘つきでも有ません自分の言う事くらいは心得て居ますから」と遣返す、此儘に捨置なば二人の間に攫み合も初り兼ざる剣幕なれば警察長は捨置かれずと思いし如く割て入り「いや目科君待ち給え詳しく聞終ッた上で無ければ分らぬから」と云い更に巡査に打向いて「さ事の次第を細かに述べ今一応説明して見ろ」と命じたり、巡査は此命を得て俄に己の重きを増したる如く一寸と目科を尻目に掛け容体ぶりて説き始む「私しは貴官の命を受け検査官一名及び同僚巡査一名と共に、都合三名で、ビヽエン街五十七番館