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ちのもじ
血の文字
黒岩 涙香
「綾にしき」1892(明治25)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页
と云終りて其コロップを衣嚢に入るに此所へ入来るは別人ならず今しも目科が呼置きたる此家の店番にして即ち先刻余と目科と此家に入込しとき店先にて大勢の店子等に泡を吹きつゝ話し居たる老女なり、女「何御用か知ませんが少々用事も有ますので余りお手間の取れぬ様に願います」と云いつゝ老女は目科の差出す椅子に寄れり、目科は何所と無く威光高き調子を現わし「少し聞度い事が有るので、是から一々お前に問うから何も彼も腹臓なく答えぬと返てお前の不為だよ女「はい心得ました」目科は判事の尋問する如く己れも先ず椅子に寄りて「殺された老人の名は何と云う、女「梅五郎と申ました目「何時から此家に住で居る女「はい八年前から目「其前は何所に住だ女「夫まではリセリウ街で理髪店を開いて居ました、老人は理髪師で身代を作ッたのです目「何れほどの身代が有る女「確には知ませんが老人の甥が時々申ますに伯父は命を取られると云う場合には随分百万法くらいは出し兼ぬと云いました」目科は心の中にて「ふゝむ予審判事は何かの書面を頻りと書記に写させて居たから梅五郎の身代を残らず調べ上て行たと見えるな」