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ちのもじ
血の文字
黒岩 涙香
「綾にしき」1892(明治25)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页
ものを」と云う、不意の食事は此職業には有りがちなれば細君は騒ぎもせず庖の方に退きて五分間と経ぬうち早や冷肉の膳を持出で二人の前に供したれば、二人は無言の儘忙わしく喫べ初めしも、喫て先ず脾だるさの鉾先だけ収まるや徐々と話に掛り、目科は今宵の一条を洩さず細君に語り聞かす流石探偵の妻だけに細君も素人臭き聞手と違い時々不審など質問する孰れも能く炙所に当れば余は殆ど感心し「此の聞具合では必ず多少の意見も有るだろう」と窃に思待つうちに、漸く目科の話が終れば果せるかな細君は第一に「貴方は失念た事を仕ましたね」と云う、目科は宛も今までの経験にて細君の意見の侮り難きを知れる如く、此言葉に多少の重みを置き「失念た事とは何が細「現場を立去ッてから直に牢屋へ行くと云う事は有りませんよ目「だッて牢屋には肝腎の藻西太郎が居るだろうじゃ無いか細「でも貴方、藻西に逢た所で別に利益は無ッたでしょう、夫よりは何故直に藻西太郎の宅へ行き其妻を尋問しませぬ」目科は成るほどゝ思いしか一語を発せず猶お細君の説を聞く、細君は語を継ぎて「直に行けば猶だ藻西太郎が捕縛されて間も無い