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ちのもじ

血の文字

黒岩 涙香

「綾にしき」1892(明治25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页

青空文庫

者で無くて、夫で彼れを鼻の先で使い兼ないと云た様に私しは今聞取りましたが、爾ですか余「爾です細「して又藻西が家の暮しは何の様です随分困難だと云いましょう、ですから妻は自分の欲い物も買無いし、現在金持の伯父が有ながら此様な貧苦をするのは馬鹿/″\しいと思ッたに違い有りません、既に昨年とかも藻西太郎に勧め伯父から大金を借出させようとした程では有ませんか、最早や我慢が仕切れ無く成た為としか思われません、夫を老人が跳附けて一文も貸さ無ッたゆえ自分の望みは外れて仕舞い老人が憎くなり夫かと云て急に死相な様子も無くあゝも達者では死だ所が自分等の最う歯の抜ける頃だろう間が悪ければ自分等の方が却て老人に葬いを出して貰う仕儀に成るかも知れぬと斯思ッた者ですから是が段々と抗じて来て終に殺して仕舞う心にも成り間がな隙がな藻西太郎に説附けて到頭彼れに同意させ果は手ずから短刀を授けたかも知れません、藻西太郎も初めの中は何でしたか手を更え品を変えて口説かれるうちにはツイ其気になり、夫に又商売は暇になる此儘居ては身代限り可愛い女房も食し兼る事に成るし、貧苦の恐れと女房の嘆きに心まで暗で仕舞い何うやら斯やら伯父を殺して其身代を取る