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ちのもじ
血の文字
黒岩 涙香
「綾にしき」1892(明治25)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页
是れ実に難中の至難なり、余は及ぶだけ工夫せし末「何うだ目科君、倉子へ見え隠れに探偵一人を附けて置ては、え君、必ず此犯罪の前に情夫と打合せて有るのだから当分其情夫が此辺へ尋ねて来る事は有るまいけれど、女と云う者は心も細く所天が牢に入られ、其筋からも時々異様な人が来て尋問するなどの事が有ては独で辛抱が出来なく成り必ず忍で其情夫に逢に行くだろうと思うが」目科は余が言葉に返事もせず只管に考うるのみなりしが忽然として顔を上げ「いや了ぬ、了ぬ、俚諺にも鉄の冷ぬうちに打てと云う事が有る、余温を冷ましては何も彼も後の祭だ余「では余温の冷めぬうちに甘く見破る工夫が有るのか目「随分険呑な工夫だけれど一か八か当て砕けるのさ余「夫にしても何う云う工夫だ目「工夫は唯だあの犬ばかりだ、犬を利用する外無いから旨く行けば詰る所君の手際だ、犬に目を附け初めたのは君だから、夫にしても遣て見るまで黙て居たまえ、今に直ぐ分る事だ余「今に直なら夫まで無言で問ずにも居ようが真に今直遣るのかえ目「左様、裁判所から倉子に出頭を命じたのが午後三時だから倉子は二時半に家を出るだろう、家を出れば其留守はあの下女が一人だから吾々の試験す可きは其間だ