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あめのやまぶき

雨の山吹

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,433 字 · 33 页

青空文庫

「では死んでいるのかどうかも」

「いや、海辺に遺品があったんです」又三郎はいそいで云った、「――手取川の河口の近くでした、汀から一段ばかりうしろの松林の中でしたが、結い付け草履を揃えてぬぎ、その上にあの櫛笄を紙に包んで置いたのを、石で押えてありました」

「おまえがみつけたのか」

「子供たちがみつけて騒いでいたのを、銭を遣って引取り、すぐに能登屋をひきはらって、松任へ宿を変えたのです」

「――ではあの壺の中には」

「遺品のあった場所の小石と、汀の砂と、それから結い付け草履を焼いて、その灰をいっしょに入れました」

そう云って、とつぜん、又三郎は言句に詰ったように口をつぐみ、下を向いて暫く沈黙した。ひとりで草履を焼いたときの、汝生を哀れむ思いが胸にこみあげてきて、危うく涙がこぼれそうになったのである。……浜の者にきくと、そこは手取川の水勢が沖へ強く押出すので、水死者などはしばしば越前のほうまで流される、ということであった。事情が事情だから、それでは死躰を捜す方法も時間もない。やむなくそんな手段をとったのだが、壺の中へそれらの物を入れるときの哀れさは譬えようがなかった。