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あめのやまぶき
雨の山吹
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,433 字 · 33 页
「それでは、なるべく早く埋葬するほうがいいな」
と兵庫が云った。それから溜息をついて、
「寐ついてから、いろいろなことを考えたよ、一家の運とか、人間の一生などについてね、……葛西家はこれまで平穏無事だった、私もおまえも、殆んど不自由ということを知らず、父上の亡くなったとき以外は、悲しみや苦しみも知らずに育って来た、それがこの一年ばかりまえから、……母上が病気になられてからこっち、動木の問題で迷惑をし続け、ようやく片がついたと思うと、汝生、そして私が胃をやられた、不幸は重なってくるというから、この次またどんな事が起こるかわからないが、葛西の家にもそんな運がまわってきた、という感じがしきりにするんだ」
兵庫には珍しく、感傷的なことを云いだした。それは気の弱りですよ、と又三郎はうち消しながら、心のなかではやはり同じような予感がするのを、否めなかった。
――そうだ、これまであまりに順調すぎた、こんなに平穏無事な生活はなかった、そろそろ崩れだす時期がきたのかもしれない。
人間の一生は、思わぬ災厄や悲嘆や、困苦なしには済まないらしい。そういう例は飽きるほど見たり聞いたりしてきたが、自分たちがいま同じようなまわりあわせに当面している、と想像するのは、相当たまらないことであった。