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あめのやまぶき
雨の山吹
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,433 字 · 33 页
すると給仕をしていた汝生が、いきなり激しい調子でそれに応じた。
――三浦のお兄さまの仰しゃるとおりですわ、あんな僅かな不始末にうろうろして、いっそ切腹でもなさればいいのに、幼い子を伴れて逃げだすなんて、いったい逃げた先でどうするつもりでしょう、しまいには乞食にでもなる気でしょうか。
――ひどく怒ったもんだね、もういいよ。
又三郎が制止した。汝生は眼にいっぱい涙を溜め、唇をふるわせて今にも泣きだしそうにみえた。
――喜兵衛のことより自分のことを考えるがいい、ぜんたいいつまで嫁にゆかないつもりなんだ、もう二十一じゃないか。
そんなふうに話をそらしていった。
あとから思うと、汝生の怒りは喜兵衛を責めるのでなく、深い哀れみのためであったと想像されたのである。そのとき又三郎が結婚のことなど云いだしたのは、三浦のほうの知人から、――西牧陽之助へどうか、というはなしがあり、汝生が相変らずしぶっていると聞いたからであった。
いったい汝生は人に好かれるたちで、十五六のころからよく縁談があった。縹緻は十人なみだが、ふっくりとまる顔で愛嬌があり、明るくて陰のない性分が好かれるらしい。