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あめのやまぶき
雨の山吹
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,433 字 · 33 页
泣き黒子は顔をさみしくする、といわれるのに、汝生のは却って表情をやわらげるようにみえた。……縁談は初めのうち母が断わっていた、せっかく女の子ができたのだから、もう少し側に置いておきたい。というのである。自分の腹を痛めた子でなくとも、女親はやはり娘が惜しいのであろう。汝生はまた汝生で、
――わたくしちい兄さまのお嫁になりますの。
などと云ってけろっとしていた。そして、やがて母の気持が変りだすと、こんどは汝生が首を振るようになり、一生お母さまの側にいるのだ、などと云い張って、ずっと断わりとおして来たのであった。
「――そうだ、慥かに動木のことも原因の一つになっている」
仔細に思い返してみて、又三郎は独りそう呟いた。
「――身の上もよく似ていたし、あんなに好きで、姉のように劬り庇っていたのが、結局は不幸なみじめなことになってしまった、心のなかでは、おそらく自分の不幸よりも悲しく、辛いおもいをしていたに違いない」
世をはかなんだ汝生の気持が、又三郎はよくわかるように思えた。そして、こんなときもし母が実の母親であり、兄や自分が肉親であったら、あるいは独りで思いつめるようなこともなく、死なずにも済んだのではなかろうか。