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あめのやまぶき
雨の山吹
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,433 字 · 33 页
「これから頼むところだ」兵庫が遮った、「――いま手紙をみせたばかりなんだ、ここはいいから向うへいっておいで」
茶を注ぎ、菓子鉢をすすめて、文代は去った。又三郎は兄の話すのを待った。
「八日まえに、紅梅会の者五人と粟津へいったんだ」兵庫は云った、「――もうまもなく祝言だし、西牧へゆけば当分は出られないだろう、母上もぜひやってやれと仰しゃるので、出してやったんだ」
城下の寺町に、小舘梅園という女史の経営する女塾があり、藩士の娘たちに学問や諸芸を教えていた。紅梅会はその塾生たちの集まりで、毎年春と秋の二回、有志が組をつくって粟津へ旅行をする。粟津は名だかい温泉場であるが、往復の道に四日、中三日滞在の日程にはきびしい規則があり、行楽よりも、塾でならい覚えたことを実地にためす、というのが主眼になっていた。
汝生はその旅行にでかけたのであるが、昨日の夕方、いっしょにいった娘の一人が、粟津から帰って、汝生の帰りがおくれるということを告げに来た。小松の宿で腹痛を起こしたそうで、その柊屋という家は紅梅会の定宿であり、治ったら宿の者が送って来る、という話であった。
「そうしてこの手紙を、汝生から預かったといって置いていったんだ」