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あめのやまぶき

雨の山吹

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,433 字 · 33 页

青空文庫

駿河の府中で風邪をひき、十日ばかり宿で寝こんだが、そのとき汝生を見たというのである。汝生は三日に一度ずつ、順に宿屋をまわって花を活ける。つまり稼ぎの一つらしいが、そのまわって歩く姿を、女史は二度みかけた。女史の部屋へは来なかったし、死んだ筈の者なので、二度めにはよくよく見たが、紛れもなく汝生であった。もちろん事情のあることだろう、呼びかけては悪いと思って、宿の女中にそれとなく身の上を訊いてみた。すると、名はおその、結城伊兵衛という浪人の妻で、三年まえにその土地へ来た。子供が二人ある。良人は病弱のため自宅で読み書きを教え、妻女は茶の湯の稽古に出たり、宿屋をまわって花を活けたり、また賃縫いなどもして、親子四人の暮しを立てている、という話だったそうである。

「そうでしょうか、私にはどうしても本当とは思えませんがね」

「さっき女史が自分で来て話して呉れた、他人のそら似かもしれないし自分は決して他言はしないが、ともかく念のために、……と云ったが、それはこちらへの親切だろう、また浪人の名の結城伊兵衛は、動木喜兵衛と音がよく似ている、偽名はどこか似るものだというが、私にはどうも動木だという気がするんだ」