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あめのやまぶき

雨の山吹

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,433 字 · 33 页

青空文庫

又三郎は立場へ馬を預け、かいばを頼んでから、帳場で訊き、駕籠かきや馬子たちに訊いてみた。

――年は二十一であるが若くみえる。背丈は五尺一寸ばかり、まる顔で色が白く、左の眼の下にかなり大きな黒子がある。武家そだちの娘一人。

五軒ある宿屋や、街道の茶店なども、こういって訊いて歩いた。顔かたちや年などを云うたびに、又三郎は胸が痛くなり、涙がこぼれそうになった。三浦家へ婿にいってから半年、汝生とは暫く会っていない、――まる顔の白いふっくりした頬、泣き黒子など、思いだしては挙げていると、姿かたちばかりでなく、やや鼻にかかる声や、あまえた話しぶりや、いつまでも子供らしかった表情まで、まざまざと眼にうかんできて、どうしようもないほど哀憐のおもいを唆られた。

おそい昼食を済ませてから、再び馬で、鶴来の町までゆき、また引返して川を越え、松任のあたりまで戻ってみた。しかしそれらしい者を見かけた、という程度の消息も得られなかった。一本街道のことで往来も多いが、娘一人の旅というのは稀だから、見た者があれば覚えている筈である。

――もうだめだろうか。……いや諦めるには早い、ことによると思いかえして、どこかの宿で途方にくれているかもしれない。