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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
それでいて、着物なんぞは随分質素にしている。今着ている銘撰の綿入と、締めている白縮緬のへこ帯とは、相応に新しくはあるが、寝る時もこのまま寝て、洋服に着換えない時には、このままでどこへでも出掛けるのである。
大石が東京新聞を見てしまって、傍に畳ねて置いてある、外の新聞二三枚の文学欄だけを拾読をする処へ、さっきの名刺の客が這入ってきた。二十二三の書生風の男である。縞の綿入に小倉袴を穿いて、羽織は着ていない。名刺には新思潮記者とあったが、実際この頃の真面目な記者には、こういう風なのが多いのである。
「近藤時雄です」
鋭い目の窪んだ、鼻の尖った顔に、無造作な愛敬を湛えて、記者は名告った。
「僕が大石です」
目を挙げて客の顔を見ただけで、新聞は手から置かない。用があるなら、早く言ってしまって帰れとでも云いそうな心持が見える。それでも、近藤の顔に初め見えていた微笑は消えない。主人が新聞を手から置くことを予期しないと見える。そしてあらゆる新聞雑誌に肖像の載せてある大石が、自分で名を名告ったのは、全く無用な事であって、その無用な事をしたのは、特に恩恵を施してくれたのだ位に思っているのかも知れない。