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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
茶が出る。菓子が出る。しづえは静かに這入って静かに立って行く。一間のうちはしんとしていて、話が絶えると、衝く息の音が聞える程である。二重に鎖された戸の外には風の音もしないので、汽車が汽笛を鳴らして過ぎる時だけ、実世間の消息が通うように思われるのである。
奥さんは己の返した一つの火鉢を顧みないで、指の尖の驚くべく細い、透き徹るような左の手を、退紅色摸様の炬燵布団の上に載せて、稍神経質らしく指を拡げたりすぼめたりしながら、目を大きくって己の顔をじっと見て、「お烟草を上がりませんの」だの、「この頃あなた何をしていらっしって」だのというような、無意味な問を発する。己も勉めて無意味な返事をする。己は何か言いながら、覚えず奥さんの顔とお雪さんの顔とを較べて見た。
まあ、なんという違いようだろう。お雪さんの、血の急流が毛細管の中を奔っているような、ふっくりしてすべっこくない顔には、刹那も表情の変化の絶える隙がない。埒もない対話をしているのに、一一の詞に応じて、一一の表情筋の顫動が現れる。Naif な小曲に sensible な伴奏がある。
それに較べて見ると、青み掛かって白い、希臘風に正しいとでも云いたいような奥さんの顔は、殆ど masque である。