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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

芸者達は暫く酌をしていたが、何かき合って一度に立ってこん度は三味線を持って出た。そして入口のあたりで、床の間に併行した線の上に四人が一列に並んで、弾いたり歌ったりすると、二人はその前に立って踊った。そうぞうしかった話声があらかた歇んだ。中にはひどく真面目になって踊を見ているものもある。

まだ純一の前を起たずに、背を円くして胡坐を掻いて、不精らしく紙巻煙草を飲んでいた瀬戸が、「長歌の老松というのだ」と、教育的説明をして、暫くして又こう云った。

「見給え。あのこっちから見て右の方で踊っている芸者なんぞは、お茶碾き仲間にしては別品だね」

「僕なんぞはどうせ上手か下手か分からないのだから、踊はお酌の方が綺麗で好かろうと思う。なぜきょうはお酌が来ないのだろう」

「そうさね。明いたのがいなかったのだろう」

こう云って、瀬戸はついと起って、どこかへ行ってしまった。純一は自分の右も左も皆空席になっているのに気が附いて、なんだか居心が悪くなった。そこで電車で逢って一しょに来た、あの高山先生の処へでも行って見ようかと、ふと思い附いて、先生の顔が見えたように思った、床の間の左の、違棚のあたりを見ると、先生は相変らず何やら盛んに話している。