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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
黄いろい水がもう一面に漲って来た。その中に、この一本の木が離れ小島のように抜き出でている。滅びた世界に、新に生れて来た Adam と Eva とのように梢を掴む片手に身を支えながら、二人は遠慮なく近寄った。
純一は相触れんとするまでに迫まり近づいた、知らぬ女の顔の、忽ちおちゃらになったのを、少しも不思議とは思わない。馴馴しい表情と切れ切れの詞とが交わされるうちに、女はいつか坂井の奥さんになっている。純一が危い体を支えていようとする努力と、僅かに二人の間に存している距離を縮めようと思う慾望とに悩まされているうちに、女の顔はいつかお雪さんになっている。
純一がはっと思って、半醒覚の状態に復ったのはこの一刹那の事であった。誰やらの書いたものに、人は夢の中ではどんな禽獣のような行いをも敢てして恬然としているもので、それは道徳という約束の世間にまだ生じていない太古に復る Atavisme だと云うことがあった。これは随分思い切った推理である。しかしその是非はとにかく措いて、純一はそんな Atavisme には陥らなかった。或は夢が醒め際になっていて、醒めた意識の幾分が働いていたのかも知れない。