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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
暫くは顔がほてって来て、ひどく動悸がするようであったが、いつかぐっすり寐てしまった。
いくら寐たか分からない。何か物音がすると云うことを、夢現の間に覚えていた。それから話声が聞えた。しかも男と女の話声である。そう思うと同時に純一は目が覚めた。「お名前は」男の声である。それに女が返事をする。愛知県なんとか郡なんとか村何の何兵衛の妹何と云っているのは、若い女の声である。男は降りて行った。
知らぬ女と二人で、この二階に寝るのだと思うと、純一は不思議なような心持がした。しかし間の悪いのと、気の毒なのとで、その方を見ずに、じっとしていた。暫くして女が「もしもし」と云った。慥かに自分に言ったのである。想うに女の方では自分の熟睡していた処へ来て、目を醒ました様子から、わざと女の方を見ずにいる様子まで、すっかり見て知っているのらしい。純一はなんと云って好いか分からないので、黙っていた。女はこう云った。
「あの東京へ参りますのですが、上りの一番は何時に出ますでしょうか」
純一は強情に女の方を見ずに答えた。「そうですね。僕も知らないのですが、革包の中に旅行案内があるから、起きて見て上げましょうか」