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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
その時奥さんが「小泉さんなんぞはまだお若いのですから、そんなにお急ぎなさらなくても」と云ったが、これも庇護の詞になったのである。純一は稍反抗したいような気になって、「先生は何かおかきですか」と問い返した。そうすると奥さんが、岡村は今年の夏万翠楼の襖や衝立を大抵かいてしまったのだと云った。それが又岡村との親しさを示すと同時に、岡村と奥さんとが夏も福住で一しょにいたのではないかと云う問題が、端なく純一の心に浮んだ。
純一はそれを慥めたいような心持がしたが、そんな問を発するのは、人に言いたくない事を言わせるに当るように思われるので、気を兼ねて詞をそらした。
「箱根は夏の方が好いでしょうね」
「そうさ」と云って、岡村は無邪気に暫く考える様子であった。そして何か思い出したように、顴骨の張った大きい顔に笑を湛えて、詞を続いだ。「いや。夏が好くもないね。今時分は靄が一ぱい立ち籠めて、明りを覗って虫が飛んで来て為様がないからね。それ、あの兜虫のような奴さ。東京でも子供がかなぶんぶんと云って、掴まえておもちゃにするのだ。あいつが来るのだね」
奥さんが傍から云った。「それは本当に大変でございますの。