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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
「それは違いますわ」
「どう違う」
「あれは騒ぎにいらっしゃる方ですもの」
「なる程。騒ぐことは己には出来ないなあ」
雑煮の代りを取りに立つとき、女中は本当に立つのかと念を押した。そして純一が頷くのを見て、独言のようにつぶやいた。
「お絹さんがきっとびっくりするわ」
「おい」と純一は呼び留めた。「お絹さんというのは誰だい」
「そら、けさこちらへお火を入れにまいったでしょう。きのうあなたがお着きになると、あれが直ぐにそう云いましたわ。あの方は本を沢山持っていらっしゃったから、きっとお休みの間勉強をしにいらっしゃったのだって」
こう云って置いて、女中は通い盆を持って廊下へ出た。
純一はお絹と云う名が、自分の想像したあの女の性質に相応しているように思って、一種の満足を覚えた。そしてそのお絹が忙しい中で自分を観察してくれたのを感謝すると同時に、自分があの女の生活を余り卑しく考えたのを悔いた。
雑煮の代りが来た。給仕の女中から、お絹の事を今少し精しく聞き出すことは、むずかしくもなさそうであったが、純一は遠慮して問わなかった。意味があって問うように思われるのがつらかったのである。