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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
それからは書目を送ってくれるので、新刊書を直接に取寄せている。雑誌もその書店が取り次いで送ってくれるのである。
開けた処には、セガンチニの死ぬるところが書いてある。氷山を隣に持った小屋のような田舎屋である。ろくな煖炉もない。そこで画家は死に瀕している。体のうちの臓器はもう運転を停めようとしているのに、画家は窓を開けさせて、氷の山の巓に棚引く雲を眺めている。
純一は巻を掩うて考えた。芸術はこうしたものであろう。自分の画がくべきアルプの山は現社会である。国にいたとき夢みていた大都会の渦巻は今自分を漂わせているのである。いや、漂わせているのなら好い。漂わせていなくてはならないのに、自分は岸の蔦蘿にかじり附いているのではあるまいか。正しい意味で生活していないのではあるまいか。セガンチニが一度も窓を開けず、戸の外へ出なかったら、どうだろう。そうしたら、山の上に住まっている甲斐はあるまい。
今東京で社会の表面に立っている人に、国の人は沢山ある。世はY県の世である。国を立つとき某元老に紹介して遣ろう、某大臣に紹介して遣ろうと云った人があったのを皆ことわった。それはそういう人達がどんなに偉大であろうが、どんなに権勢があろうが、そんな事は自分の目中に置いていなかったからである。