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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

間々にばら蒔いてある座布団は跡から来る客を待っているのである。

客は大抵紺飛白の羽織に小倉袴という風で、それに学校の制服を着たのが交っている。中には大学や高等学校の服もある。

会話は大分盛んである。

丁度純一が上がって来たとき、上り口に近い一群の中で、誰やらが声高にこう云うのが聞えた。

「とにかく、君、ライフとアアトが別々になっている奴は駄目だよ」

純一は知れ切った事を、仰山らしく云っているものだと思いながら、瀬戸が人にでも引き合わせてくれるのかと、少し躊躇していたが、瀬戸は誰やら心安い間らしい人を見附けて、座敷のずっと奥の方へずんずん行って、その人と小声で忙しそうに話し出したので、純一は上り口に近い群の片端に、座布団を引き寄せて寂しく据わった。

この群では、識らない純一の来たのを、気にもしない様子で、会話を続けている。

話題に上っているのは、今夜演説に来る拊石である。老成らしい一人が云う。あれはとにかく芸術家として成功している。成功といっても一時世間を動かしたという側でいうのではない。文芸史上の意義でいうのである。それに学殖がある。短篇集なんぞの中には、西洋の事を書いて、西洋人が書いたとしきゃ思われないようなのがあると云う。