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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
瀬戸は純一にこう云って聞せながら、机を構えている男に、「今日は菓子は出ないのかい」と云った。
まだ返辞をしないうちに、例の赭顔の女中が大きい盆に一人前ずつに包んだ餅菓子を山盛にして持って来て銘々に配り始めた。
配ってしまうと、大きい土瓶に番茶を入れたのを、所々に置いて行く。
純一が受け取った菓子を手に持ったまま、会計をしている人の机の傍にいると、「おい、瀬戸」と呼び掛けられて、瀬戸は忙がしそうに立って行った。呼んだのは、初め這入ったとき瀬戸が話をしていた男である。髪を長く伸した、色の蒼い男である。又何か小声で熱心に話し出した。
人が次第に殖えて来て、それが必ずこの机の傍に来るので、純一は元の席に帰った。余り上り口に近いので、自分の敷いていた座布団だけはまだ人に占領せられずにあったのである。そこで据わろうと思うと半分ばかり飲みさしてあった茶碗をひっくり返した。純一は少し慌てて、「これは失敬しました」と云って袂からハンカチイフを出して拭いた。
「畳が驚くでしょう」
こう云って茶碗の主は、純一が銀座のどこやらの店で、ふいと一番善いのをと云って買った、フランドルのバチストで拵えたハンカチイフに目を注けている。