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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

そんな整頓は固より一朝一夕に出来る筈の整頓ではないのである。純一の耳には拊石の詞が遠い遠い物音のように、意味のない雑音になって聞えている。

純一はこの雑音を聞いているうちに、ふと聴衆の動揺を感じて、殆ど無意識に耳を欹てると、丁度拊石がこう云っていた。

「ゾラの Claude は芸術を求める。イブセンのブラントは理想を求める。その求めるものの為めに、妻をも子をも犠牲にして顧みない。そして自分も滅びる。そこを藪睨に睨んで、ブラントを諷刺だとさえ云ったものがある。実はイブセンは大真面目である。大真面目で向上の一路を示している。悉皆か絶無か。この理想はブラントという主人公の理想であるが、それが自己より出でたるもの、自己の意志より出でたるものだという所に、イブセンの求めるものの内容が限られている。とにかく道は自己の行く為めに、自己の開く道である。倫理は自己の遵奉する為めに、自己の構成する倫理である。宗教は自己の信仰する為めに、自己の建立する宗教である。一言で云えば、Autonomie である。それを公式にして見せることは、イブセンにも出来なんだであろう。とにかくイブセンは求める人であります。