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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
微な parfum のがおりおり純一の鼻を襲うのである。
奥さんは振り向いて、目で笑った。純一は何を笑ったとも解せぬながら、行儀好く笑い交した。そして人に押されるのが可笑しいのだろうと、跡から解釈した。
廊下に出た。純一は人が疎になったので、遠慮して奥さんの傍を離れようと思って、わざと歩度を緩め掛けた。しかしまだ二人の間に幾何の距離も出来ないうちに、奥さんが振り返ってこう云った。
「あなたフランス語をなさるのなら、宅に書物が沢山ございますから、見にいらっしゃいまし。新しい物ばかり御覧になるのかも知れませんが、古い本にだって、宜しいものはございますでしょう。御遠慮はない内なのでございますの」
前から識り合っている人のように、少しの窘迫の態度もなく、歩きながら云われたのである。純一は名刺を出して、奥さんに渡しながら、素直にこう云った。
「わたくしは国から出て参ったばかりで、谷中に家を借りておりますが、本は殆どなんにも持っていないと云っても宜しい位です。もし文学の本がございますのですと、少し古い本で見たいものが沢山ございます」
「そうですか。文学の本がございますの。