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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
しかし一時というのは比較的な詞である。
こんな事を思っている処へ、婆あさんが朝飯を運んで来たので、純一は箸を取り上げた。婆あさんは給仕をしながら云った。
「昨晩は大相遅くまで勉強していらっしゃいましたね」
「ええ。友達の処へ本を借りに行って、つい話が長くなってしまって、遅く帰って来て、それから少し為事をしたもんですから」
言いわけらしい返事をして、これがこの内へ来てからの、嘘の衝き始めだと、ふいと思った。そして厭な心持がした。
食事が済むと、婆あさんは火鉢に炭をついで置いて帰った。
純一はゆうべ借りて来たラシイヌを出して、一二枚開けて見たが、読む気になれなかった。そこでこんなクラッシックなものは、気分のもっと平穏な時に読むべきものだと、自分で自分に言いわけをした。それから二三日前に、神田の三才社で見附けて、買って帰った Huysmans の小説のあったのを出して、読みはじめた。
小説家たる主人公と医者の客との対話が書いてある。話題は過ぎ去ったものとしての自然主義の得失である。次第次第に実世間に遠ざかって、しまいには殆ど縁の切れたようになった文芸を、ともかくも再び血のあり肉のあるものにしたのは、この主義の功績である。