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たかしまいし

高島異誌

国枝 史郎

「講談雑誌」1924(大正13)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,007 字 · 26 页

青空文庫

いざお受け取り下さいますよう……尚又もしお館様に此後ご災難などござりました際には、私の力の及ぶ限りは、必ずお力になりましょう程に、お心安く覚し召せ」

云って了うと蟇の姿は、幻のように消えて失せ、スヤスヤと眠っている吉丸ばかりが、布団の上に置いてあった。

二度目の災難の起こったのは、それから十日程経った時で、厨の方から火が起こり、館を灰燼に為ようとした。其時不思議や池の水、忽ち条々と噴き上がり、焔に向かって降りかかったので、さしもの劫火も瞬間に其勢力を失って、無事に館は助かった。斯うして不安の夏も逝き、秋の初めになった時、遂々恐ろしい没落が純八の身の上に落ちて来た。

それは後園の藤袴が空色の花を枝頭に着け、築山の裾を女郎花が、露に濡れながら飾るという如何にも秋めいた日のことであったが、純八は一人池の周囲をのんびりした気持で歩いていた。

と、裏門がギーと開いて、三年前に初めて逢い、彼に福徳を授けて呉れた白髪皓膚の托鉢僧が、そこから忽然と這入って来た。

「お、これはご老僧。ようこそお出で下されました」

と、死んだ親にでも逢ったように、大袈裟に純八は喜び乍ら、手を拡げて其方へ走り寄った。