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たかしまいし
高島異誌
国枝 史郎
「講談雑誌」1924(大正13)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,007 字 · 26 页
美人と童子
僧がポンポンと手を拍った。
と其刹那高楼の四方から焔々たる大火燃え上ったが、忽ち館は烏有に帰した。
「異譚深山桜」には、其時の事を次のように、哀れ深く書いてある。
「(前略)妖火静まつて後を見れば、寂寥として一物無く、家屋広園悉く潰え、白骨塁々雑草離々人語鳥声聞ゆるもの無し。而て白骨は彼の家人、即ち妾婢幼児なりき。
彼唖然として心茫々、回顧すれば老僧の姿、又忽として消亡す。(下略)」
つまり恋しい笹千代も恩愛限り無い吉丸さえ、彼は失って了ったのであった。如何に彼が驚いたか、どんなに彼が悲しんだか、敢てそんな事は筆を改めて説明するにも及ぶまい。――斯うして彼は一切の栄華、総ての物を失ったのであった。
美人と童子
一朝にして王侯の生活、再転して乞食の境遇。昨日の繁栄は今日の没落、本条純八は暫くの間は夢現の境に彷徨したが、此の著しい変転は却って彼には良薬となり、俄然精神が一変し、現世の悦楽を求むる代りに、虚無融通の神仙道に、憧憬の心を運ぶようになった。
昔のままに残っている先祖から譲られた廃屋に住み、再び近所の子供を集めて、名賢の教えを説く傍山野の間を跋渉して、努めて心胆を鍛錬した。