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どようふじん
土曜夫人
織田 作之助
線上閱讀織田 作之助《土曜夫人(どようふじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 106,903 字 · 213 頁
七
七
もう我慢が出来ぬ――と、章三は貴子の座席の方へ行こうとした。貴子の横面を殴ろうとしたのだ。
自分の女がほかの男と手を握り合っているばかりか、男の眼にはいった煤を、舌の先で嘗めて取っているのだ。遠くから見ていると、そのポーズがもっと別のことを錯覚させる。
章三でなくても、誰でも殴りたいと思うのは、当然だろう。しかし、その男が春隆でなかったら、章三もそれほど逆上しなかっただろう。春隆は章三にとって最もきらいな人種なのだ。
貴子が貴族に憧れるのは、結局卑賤に生れたことが原因しているが、それと同じ理由で、爪楊枝けずりの職人の家に生れた章三は、貴族というものに敵意を感じていたのである。そしてまた、爪楊枝けずりの職人の息子だということが、章三の自尊心を人一倍傷つき易いものにしていたから、人一倍カッとなって、殆んど前後の見境もなくなるところだった。
「自尊心を傷つけられて、我慢するくらいだったら、死んだ方がましだ」
というのが章三の信条であり、野心のためにどんな辛いことも我慢するが、自尊心を傷つけられることだけは我慢できず、野心は勿論自分をすっかり投げ出してもいいと思っていたのだ。