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どようふじん

土曜夫人

織田 作之助

線上閱讀織田 作之助《土曜夫人(どようふじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 106,903 字 · 213 頁

青空文庫

六

六

誰だろう――と、声を待っていると、

「兄ちゃん……?」

なつかしそうに、しかし、おずおずと受話器を伝わって来た声は、思いがけず、靴磨きの娘だった。

「――あたい、判る……?」

「うん」

「兄ちゃん、あたいなんぜ、こんなところから電話掛けてるか、判る……?」

何かいそいそと弾んだ声だった。

「えっ……?」

と考えたが、咄嗟には判らなかった。

「――おれ判るもんか。なぜ、セントルイスへ行ったんだい」

「判れへん……? ほんまに判れへんのン、兄ちゃん」

じれったそうだった。

「判るもんか。なぜだ。言ってみろ!」

「…………」

しかし、返辞はなかった。

「まかれてしまったのか」

と、京吉は何気なく声をひそめた。娘に、あの男――スリを尾行しろと、ただそれだけ言ったのである。尾行して、それからどうしろ――と、注意を与える暇はなかった。だから、財布は戻るとは当てにしていなかった。ただ、わざわざスリを見つけながら、ほって置くのも癪だ――そんな軽い気持で尾行させただけである。娘がスリにまかれてしまったところで、べつに悲観もしない。ところが、

「ううん」

まかれなかったわよ――という意味の声が、鬼の首を取った威張り方で聴えて来た。