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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁
大焚火
女の肌の下で、幼な子が、わーんッと、泣き出したのも一しょだった。おお、その天真の声の何と、お燕の泣き声とそッくりなことだろう。父を責める子の声に、市十郎は耳をふさいだ。彼の本心は幼い者の叫喚に、鞭打たれ、叩き出され、動顛して、その部屋から転び出した。
「おッ、於市っ。何か、来たのかっ。ま、待てッたら」
大亀も、あわてた。二人のうち、どッちの足がつまずいたのか、行燈が蹴仆され、灯皿の油と、火の粒が散った。
どたどたっと、そこから逃げ出す跫音のうちに、なお大亀の叫ぶ声がしきりにしたが、市十郎は、夢のようにただ走った。苛責に追われて逃げ狂った。
「火事だっ。三輪の方が」
「火事。火事。寮らしいぞ」
わらわらと人が駈けてくる。彼の走ってゆく反対の方から駈けてくる。にもかかわらず、市十郎には、その沢山な人影の疾風はみな悉く自分ひとりを追い廻して来るものみたいに思われていた。
大焚火
雪の多い年である。明けて、正月二日も雪だった。
どこに寝、どこを歩いたかも、覚えのない市十郎。
彼は、そんな雪の夜も、道で拾った酒菰を頭から被って、蹌踉と、軒下から軒下を歩いていた。