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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁

青空文庫

春告鳥駕籠

そこのお人は、そなたの兄か」

「そ、そうです。ああ……」

市十郎は、総毛立ッた襟がみをつかまれながらも、両手を顔へやったまま、潸然と、泣き恥じていた。

「骨肉の兄弟でありながら、相見たとたんに、仇敵のように、逃げようとするのは、どうしたわけじゃ。不幸な人間たちではあるよ。――が、ともあれ、施粥の中途じゃ。市十郎、やりかけた善奉行のお手伝いを、折角、ここで止めるのは、惜しくはないか。さ、仕舞いまで、手伝いなさい」

同苦坊は、手を放して、主殿へ告げた。

「お案じなさるな、逃げはしません。御舎弟の胸のうちは、この幾日かで、わしにはわかっている。ま、その辺りに腰かけて、休んでおいでなさい」

春告鳥駕籠

市十郎は、粥汲みをつづけた。

それをしているうちに、彼の心は、かなり平調にもどってきた。この数日の間に、稀れには、同苦とも口をきいていたし、苦悶の一端も訴えていた。その都度、同苦の、みじかい言葉は、深く彼の本心にふれ、喪失した彼自身を、彼のうちに、呼びもどしていたところでもあった。

その夕方。――施行のすべても片づいてから。

兄弟は、同苦坊を信じて、同苦の前に、一切をうちあけた。