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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁

青空文庫

その良人がめずらしく、今夜はおそい。

「どう遊ばしたのか」

お縫は、奥の寝間で、園子に添乳しながら、案じていた。

まだ、乳もはなれない園子には、乳母もつけてあるが、きのうから風邪ぎみで、熱もたかく、母の肌を恋しがって、離さないのである。

「――お月番でもないのに」

と、彼女は、気をもんだ。家にあっても、良人の職とする町奉行というものの重責に何か、大事が起ったと感じると、彼女の母乳の出方にもすぐひびいた。

「殿さまのお帰りでございます。――奥方様」

廊下のそとで、いつものように、女中の知らせる声がした。

お縫は、ほっとした。

園子を、乳母にあずけ、いそいで、鏡台の前へ寄ってから、迎えに出た。

駕籠をおりた越前守は、ちょうど、玄関の式台へ上っていた。

「お帰りあそばしませ」

「きょうは、ちと晩うなってな」

いつもの気色と、かわりもない。

公服を解き、風呂に入り、やがてお縫の給仕で夜食の膳につきながら、

「子どもたちは、もう寝たか」

「はい、宵のうちまで、求太郎も雪子もしきりと、お父さまをお待ちしておりましたが」

「園が、寝所で泣いておるようだの」

「きょうは、咳が出るので、むずかってばかりおります」