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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁
もし、当時の犬公方、徳川綱吉が、その生母や悪僧の言を容れて――生類おんあわれみ――などという悪法律をもって、人間を、犬猫以下におくようなことをしなかったら、これらの人間は、決して、かくまで暗い半生は通って来なかったろう。少なくも、動機となる罪は犯していなかったはずだ。
大亀でも、阿能でもそうであるが如く、化物刑部すら、そういえる。もし、社会がもっと明るく、庶民に不満不平の声がなかったら、かれらとて、一世をひッくり返して、
(おれたちでも、これよりは、ちッとはましな政治ぐらいはやってみせる)
と、無謀な乱をたくませるようなことはなかったろう。
弱い、女の一生をもつ――いとけないお袖の生い立ちなどは、あの悪い政治、あの腐った世風の下では、犠牲というほどな力さえない。まして、あとに生れた、お燕の運命までが、禍いされても、その悪宿命を断つことが、どうして出来よう。母の愛をもっても断れず、母子して、悪業の中に漂ってきたのもむりはない。
――そう、聞いているのか、否か、越前守の面上には、何も、はたから読みうるほどな顔いろも見えず、この一室は、かくてこの事件の全貌を、個々にも、外廓からも、根本的に洗いあげるべき、一大吟味室とはなっていたのである。