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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁

青空文庫

「では、念のため、別院の内を、調べさせていただくが」

「どうぞ。よろしきように」

藪八は、そこを去って、別院内の不伝の部屋へ案内を乞うた。

もちろん、不伝は留守。和書の本棚や、机や経巻などが、冷々と、備えてあるほか、ふつうの住僧の部屋とかわりはない。

「はて。彼の帰るまで、ここで待つといたそうか」

わざと、独り語をいって、藪八は一応そこに坐りこんだ。

将軍家の隠し目付がここに臨んだという囁きは、たちまち、全院の僧侶や寺侍につたわって、蔽いきれぬ動揺をよび起していた。

僧侶の秘事や、寺侍たちの悪風は、市中に露呈しているもの以上である。ここもまた、決して、それらの腐敗寺院の例外ではない。いや、寺社奉行も町方も足ぶみ出来ない一種の絶対権のある所だけに、実は、想像以上なものかも知れないのだ。

廊下の隅、大台所、講堂などの、あちこちに首を寄せて、恟々と、何か、声ひそませて協議していた役僧の寺侍たちは、やがてその中から一名の代表を出して、畏る畏る藪八の前へ、やって来た。

狂蝶譜

「何か、御詮議でございましょうか」

と、代表がいう。

「さればで――」と、藪八は、思うつぼへ来た者の顔を、ニヤリと見ながらいった。