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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁

青空文庫

第六章

灯影人影

行っておやりなね。ああ、欲には限りがないものらしい」

第六章

灯影人影

湯島天神の縁日でもあろうか。切通しの森を透いて、紅提灯や虫売りの灯が、夜空の星と争って、風のふくたび、戦ぎ立って見える。

「お燕。――遠いのかえ、行く先は」

「いいえ。牛込の矢来ですから、そんなにも……」

母と娘は、こうして、連れ立って歩くことの久しぶりを、さすがに、なつかしまずにいられなかったであろう。お袖もお燕も、ひたと身を寄せ合って、湯島の切通し坂を登っていた。

けれど、すこし離れた後からは、お袖にとって、まだ何となく心のゆるせない藪田助八が尾いて来る。それが気になって――お袖はなお、お燕にさえ、心も口も閉じているふうである。

(いったい、矢来の家とやらへ、自分を連れて行って、どうする気だろう?)

かの女には、この猜疑が、実はまだ、溶けてはいない。――お燕も泣いていうし、藪八も懇ろにすすめるので、蓮見茶屋から一しょに出ては来たものの、なお、不安はしきりなのである。

(自分にとって、敵か味方か)

こう考えると、お袖は急に、しまッたという気がした。

悪の仲間に住んで来た通念からいえば、この世の中に、真実の味方などはない。