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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁

青空文庫

高札斬り

高札斬り

隣家の市川楽翁は、夜が明けるのを待ちかねていたように、庭づたいにやって来て、藪田助八の隠れ家をたたいていた。

「や。藪八どの、もうお眼ざめか」

「何の、いま帰ったばかりだ」

「ほ。それでは、寝もやらずに?」

「されば。昨夜は、えらい目にあってな。藪八一代の不覚をやってしもうた」

「……では。お袖は、お連れにならなかったので」

「首尾よく、居どころを突きとめて、途中までは、連れて来たのだが……」

きのうの出先から昨夜までの始末を――そして湯島天神の辻で、ふと、そのお袖の姿を見失い、ついに空しく探しあぐねて帰って来たことなどを――藪八は、いかにも、疲れはてた面持ちで、つぶさに話した。

そう聞いて、楽翁も、

「はて、これやいよいよ、事難かしくなりおったわい」

と、額に手をあててみたり、腕こまぬいて考えこんだり、藪八と共に、果てなく憂いに沈みこんだ。

「……して。お燕は今朝、どうしておりますか」

「いや、あれは、戻るとすぐ、そっと離室へ寝せておいた。生なか、母にひと目、会ったあげく、その母の口から、世を呪う声ばかり聞かされたので、ひどく心を傷めたものか、まるで重病人のようになっておる。