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だいぼさつとうげ

大菩薩峠13

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠13(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 349,705 字 · 678 頁

青空文庫

三十五

「まあ、こちらへいらっしゃい、まだ、ここを出てはいけません――もう少しここに忍んでいらっしゃい」

この若い、おだやかな、敵意と危険とを微塵も感ぜしめない人は、徹底的に念の入った親切と用心で、静かに、道場の虎を描いた衝立の方に娘を誘いました。

三十五

こうして道場の中はひっそりしているけれども、中庭を歩いて行く胡見沢は、いよいよ陽気になって、何かクドクドと口走りながら、庭をぐるぐる廻っているところを見ると、この男は酔うとむやみに陽気になり、御機嫌がよくなり、人が好くなってしまう点は、神尾主膳あたりとは全く酒癖を異にしているらしい。

やや暫くして、例のお部屋様の戸の外に立ってことことと叩き、

「お蘭さん、お蘭さん、お蘭さんはおらんかね、ちょっとここをあけて頂戴」

人の好いのを通り越して、全くだらしのない呼び声です。

でも、中ではこのだらしのない呼び声が聞えていなければならないのに、いっこう返事がありません。返事がないものですから、

「お蘭さん、お目醒めでないかい、おらがお蘭さんはおらんのかい」

何といういやらしい猫撫声だ。

これではまるで、お人好しの宿六が、嬶天下の御機嫌をとりに来たようなものではないか、郡民畏怖の的である新お代官の権威のために取らない。