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だいぼさつとうげ

大菩薩峠13

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠13(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 349,705 字 · 678 頁

青空文庫

三十二

このすさまじい障子の色は、ずんずんこのままで夜色に浸ってゆく。

三十二

こうして、夜はしんしんと更くるに任せて行くが、誰あって障子の肌の夜寒を憐むものはないのです。

無論あのままで、訪ねて来る人も、出て行く人もなかったのですが、夜もほとんど三更ともいってよい時分になると、ひそかにその裏の縁側の南天の蔭が物音を立て、そこから鼠のようになって這い出した一つの人影を見出す――それは、鶴寿堂の若い番頭政吉に相違ない。でもよかった、息を吹き返して、ここまで逃げ出すことができた点に於ては、幸内よりもズット優った運命を恵まれている。やっと南天の茂みから這い出した若者のホッと安心したのは束の間――かわいそうにこの若者の後ろにはやっぱりのがれられない縄がついておりました。

その縄を辿って後ろから続く人影こそは、いつもの通り、甲府の城下でも、江戸の本所でも、夜な夜な一人歩きして、闇を喰い、血を吸わねば生きておられない人。

今晩は一人、お先供があるまでのものです。

つまり、飛騨の高山の貸本屋鶴寿堂の若い番頭、なおくわしく言えば、高山屈指の穀屋の後家さんの男妾を業としていた浅吉という色男の弟だと言われた同苗政吉――が、この怪物のために時に取ってのお先供を仰せつかりました。